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10.8. 進捗管理

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 進捗管理の大前提は、予定と実績のずれを定量的に把握しスケジュールを補正しながら進捗を管理することである。前節までの作業において、作業内容が明確化され、適切なリソースを割り当て、現実的かつ定量的なスケジュールが完成しているはずである。さらに、それらは、「8/80ルール」や「5人日分割」などで、進捗状況を把握するうえで十分な大きさに分解されている。続く課題は、その予定に対する実績を定量的に把握することである。

 

 進捗管理の一番の問題は、根拠と一貫性のないパーセンテージによる進捗である。前述した通り、「90%の進捗」は、100%を達成するのに必要な時間という観点で見た場合には当てはまらないものである。

 

 すなわち、進捗は、予定された所要時間との相対的な評価として定量的に報告されなければならない。全体的な達成率ではなく、未達成部分を達成するためには、以下のような具体的な状況の把握が必要になる。

 

  • あとどれだけ具体的な作業が残されているのか
  • 残されている作業の中に未確定要素はないのか
  • どのようにすれば未確定要素が確定できるのか
  • 残されている作業を完了するまでに、どれだけの時間が必要なのか

 

 このような進捗報告を求めることで、予定と実績のズレを定量的に把握できることになる。

 

 しかし、これだけで進捗管理が達成できるわけではない。システム開発においては、当初の見込みとは違った変化が生まれる。プロジェクトの初期段階に作業内容をいくら明確にしても、要件の追加によるスコープの変更を適宜反映したとしても、想定外の作業が発生することはやむを得ない。
 メンバの離職や、トラブル時の報告資料作りなど、当初想定していない作業が発生した経験は誰にもあることだろう。メンバが離職し、交代要員がアサインされたとしても、新人メンバが戦力として見込んだ生産性を発揮するまでにはタイムラグがある。この期間は別のメンバが生産性をカバーする必要が出てくる。トラブル時に、プロジェクトの利害関係者にトラブルの経緯や事後対策を説明する資料を作成することも、頻繁に発生する想定外の作業である。システムに理解の薄いユーザ部門やシステム部門に対して、トラブル事象をわかりやすく説明し、事後対策に対する承認をもらうために作成する資料は、かなりの労力を必要とする作業である。理解を得られない場合には再作成を命じられる場合もある。

 

 まず、想定外の作業を誰にアサインするか、という問題がある。適材適所で、素早く解決できるメンバをアサインすべきだが、現状のリソース状況をふまえ、想定外の作業を優先させるべきメンバを選ばなければならない。たとえ能力の高いメンバであっても、クリティカルパス上にある難易度の作業を担当し、その作業状況が少し遅延しているような場合においては、想定外の作業を優先的に割り当てることはできない。

 

 さらに、このような想定外の作業が割り込むことで、「マルチタスクで処理する」という事態となる。これらは、単に進捗の問題だけではなく、リスク管理や指揮命令の問題でもある。しかし、重要なことは、これらの作業を単にマルチタスクとして計画し、指示を行ってはいけないということである。

 

 マルチタスクが生産性を低下させることは、すでに記載したとおりである。マルチタスクが生産性を下げるのであれば、作業の優先順位とスケジュールを明確にし、順序立てて作業を指示する必要がある。何が優先されるべき作業かは、プロジェクトの状況を見て、プロジェクトリーダがケース・バイ・ケースで指示をしなければならない。

 

 また、作業が遅延した場合のリカバリを計画しておく必要もあるだろう。遅延を回復する手段として、負荷の高い作業にあらかじめ日程上の余裕を持っておく方法が採られることが多い。しかし、これは百害あって一利なしである。あらかじめ日程上の余裕を持っておくことで、作業者は精神的余裕を持って作業するのが常であり、進捗が先行することはない。さらに、ところどころに日程上の余裕を持ったとしても、進捗の停滞はどこで発生するか予測不可能である。作業負荷が少ないものであっても、ユーザ企業側での意思決定の遅れなど、利害関係者による外的な問題により作業が遅延する場合もある。

 

 日程的な余裕を確保するには、各プロセスの作業が分解された時点、つまり、そのプロセスに入る段階において、ボトムアップで所要期間を再度見積もることである。ただし、この段階での再見積もりは、作業のインプット・アウトプット・プロセスが明確化された上に、全プロセスの成果物品質、未確定要素が洗い出されている必要がある。これらの情報をふまえて、プロジェクトマネージャやプロジェクトリーダは未確定要素を確定させるための活動に注力し、メンバが作業成果を出すことに集中できる環境を作る。その前提
でスケジューリングをやり直すことで、もともとのスケジュールよりも前倒ししたスケジュールを作ることができる。個々の作業で先行した日程を積み上げておくことで、日程的な余裕の確保が可能になる。このように、プロセスごとの再見積もりは、実現性の高いスケジューリングのほかに、プロジェクトに日程的な余裕をもたらす可能性を持っているのである。

 

 予定と実績、さらには現状のリソース状況を把握したうえで、状況に応じて適切なリスケジューリングを行うことこそが、現実的な進捗管理である。

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