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11.3. 文化的な背景

ハッピィ・エンジニアリング表紙

リスク管理が根付かない理由の多くは、「2.1 丸投げ文化」に記した「甘えと癒着の構造」に端を発している。

 

 ユーザ企業はSIベンダに丸投げし、SIベンダは実現可能性を考慮に入れず、「できます、できます」と安易にプロジェクトを受注している。このため、プロジェクトに問題が発生した場合でも、的確にユーザ企業と課題の共有ができない。SIベンダは、「できます」と言った手前、プロジェクトの問題を公にできない。もし公にしたとしても、丸投げしたユーザ企業の発注担当者は、無責任に「おまえらできるって言っただろ?専門家なんだから自分で何とかしろよ」とでも言うような対応をするのが目に見えている。顕在化した問題の共有すらできないのだから、プロジェクトに潜在しているリスクの共有はさらに困難なものとなってしまっている。

 

 ユーザ企業の発注担当者やプロジェクトマネージャの上司ですら、「それを何とかするのがプロジェクトマネジメントだ」というような無責任な発言をして、プロジェクトマネージャに責任の押しつけをするのが常である。もっと言葉巧みな管理職は、「そもそも難しい仕事だからこそ、君に任せているんだ。期待しているよ」と言うであろう。業務システム開発プロジェクトには、無理や矛盾を押しつけ、運頼りな、かすかな望みを持つばかりという、リスクから目を逸らすという悪しき慣習が染みついている。

 

 このような習慣に染まってしまうと、SIベンダのプロジェクトマネージャは、開発中に大きな問題が勃発しユーザ企業の耳に入ったところで、「大丈夫です」「問題ありません」「遅れはがんばって取り戻します」という発言に終始する。それが本当に駄目だった場合、すでに結果が出てしまったことに対して「〜だったら」「〜ならば」という言いわけしか出てこない。

 

 開発プロジェクトに閉じた世界へ目を向けても、状況は似たり寄ったりである。プロジェクトメンバは、下請けの連鎖によって成立している。技術者が目先の問題を指摘したところで、「そんなことは、そっちで責任持ってなんとかしてよ」という責任の押しつけが発生しているにすぎない。

 

 そもそも、「うまくいっていない」ことを公表するのは、自分の悪い評価につながりかねない。問題が顕在化した時ですら、技術者はリーダに隠し、リーダはマネージャに隠し、マネージャは上級管理職に隠す。上位にいる人間が問題の解決をする気がないことも十分に承知している。

 

 結局は、誰もが悪い話を聞きたがらないし、悪い話をしたがらないのである。これでは、プロジェクトマネージャに対して「リスク管理に熱心になれ」というのは無理な注文であろう。

 

 このような文化で育ったプロジェクトマネージャやプロジェクトリーダの性質による問題は、かなり厄介である。リスク管理にはネガティブな要素がつきまとう。特にリスクへの対処にコストが必要となる場合が問題である。プロジェクトを受注するための「ザックリ」とした概算見積りと、現実のプロジェクトに必要なコストとの矛盾を感じるままにプロジェクトをマネジメントする場合、追加のコストを避けたいという気持ちが何よりも優先される。そのせいか、「がんばればなんとかなる」というリスクを無視したプロジェクトが横行しているのが現状である。しかし、がんばって何とかなるプロジェクトは少ない。

 

 事前に対策を取るべきリスクを先送りし、問題が発生してから火消しにかかるというパターンは、「がんばればなんとかなる」という意識を象徴する行動である。すぐに火を消すことができればよいが、手を打つのが一歩遅かったときには、火が燃え広がるスピードに消火が追いつかず、あちこちで様々な問題が火を吹き始める。そもそも火がつかないようにプロジェクトを進めるのがプロジェクトマネジメントの本質であるにもかかわらず、火を着けてしまったのは技術者の責任となり、プロジェクトリーダは火を消した数が功績として評価される。このような火消しの功績を残すことができるだけの技術力を持ったリーダはまだマシである。

 

 火消しの功績を残せないプロジェクトリーダの場合、どのような行動を取るかは明らかである。プロジェクトリーダは、プロジェクトマネージャに評価されるために、うまく進んでいるように振舞うことになる。進捗が遅れていなければ、問題は隠すことができる。ここで品質への手抜きが発生する。品質の手抜きによって、そのうちに大きな手戻りが発生する。そうなると、進捗報告すら、虚偽の報告にすり変わっている可能性だって無いとはいえない。

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