このエントリーをはてなブックマークに追加LINEで送る

第2章 呪われた運命からの脱却

ハッピィ・エンジニアリング表紙

 本書はすでに記述したとおり、プロジェクトを円滑に推進させるために必要なプロセスを明確に定義し、プロジェクトメンバそれぞれが果たさなければならない役割を果たすという、システム開発プロジェクトの王道そのものについて書かれたものである。

 

 しかし、プロジェクトについて知るためには、システム開発の文化的背景や商慣習などの話題について触れなければならない。なぜなら、システム開発プロジェクトはそれ自体自己完結するような閉じたものではないからである。それに先行するシステム投資決定、調達業者の決定、金額や契約内容の決定といった一連の行為が完了した後でプロジェクトがスタートする以上、プロジェクトの成否に影響を与えているのは当然のことである。

 

 さて、本章で触れるものは、以下の5つの話題である。

 

  1. ユーザ企業と元請けのSIベンダの受発注に関する話題
  2. システムの発注金額に関する話題
  3. 連鎖する下請けに関する話題
  4. 人材と教育に関する話題
  5. 労働環境に関する話題

 

 これらの業界の慣習に関連するマクロな話題について理想論を述べるのは簡単なことであるが、このような問題について、単純に出来合いの「理想的な姿」を述べるのはあまりにも現実離れしている。なぜならば、この手の話題でたいていの理想論は、米国から発生したもので、それらは日本の商慣習を考慮して作られたものではないからである。日本的な商慣習や日本的なシステム開発の文化に合わせた形にアレンジされてこそ、初めて私たちが活用できる解決策となろう。そこで、本章では、以下のような形式で記述を進めていくことにしたい。

 

  1. 現状についての認識
  2. 現状の問題点の抽出と整理
  3. あるべき姿の提示
  4. 現状とあるべき姿のギャップを分析
  5. 現状からあるべき姿までのロードマップを提示

 

 第一に、現状を正しく認識する必要がある。ケース・バイ・ケースの議論に陥ることを避けるため、どこでも比較的多く語られている一般的なケースを取り上げている。個別のケースについての経験に基づいて議論しても発散するだけである。

 

 第二に、現状の問題点を洗い出し、そのパターンにより整理を行う。

 

 第三に、あるべき姿を掲げる。ただし、ここで述べるあるべき姿は、比較的一般論として語られるものではあるが、実態として理想論に近い。本書ではこれを「掛け声」と呼ぶことが多い。なぜなら、現実とのギャップが多く、そのままでは実用に堪えないからである。

 

 第四に、現状とあるべき姿との間に発生しているギャップを分析する。ここで、なぜ第三に挙げた理想論が単なる掛け声にとどまってしまっているかという現実を認識することができる。

 

 最後に、あるべき姿に修正を加え現実的に実現可能なものにし、さらに現状からあるべき姿に至るまでの現実的な方向性を明示する。

 

 システム開発にまつわる慣習や文化には、時代と共に変わりゆくものもあるが、悪しき慣習や文化も根強く残っている。これらがシステム開発プロジェクトの成功を困難にしており、またプロジェクトを失敗させる要因のひとつとなっている。

 

 残念なことに、慣習や文化というものが一度根づいてしまうと、それを変えるのは非常に難しい。そして、それに染まっていくのは非常に簡単である。慣習や文化に起因する問題点を改善するために一番重要なことは、それを改善するという明確な意思をトップが打ち出し、社内の隅々にまで徹底させることである。本章で記述しているのは、ささいなことではない。トップが改善の意思を見せなければならないほど、システム開発上で重要な内容である。

第2章 呪われた運命からの脱却 ハッピィ・エンジニアリング記事一覧

2.1. 丸投げ文化 ハッピィ・エンジニアリング

「日本のシステム業界は丸投げ文化である」 開発の実態として丸投げが横行していることは多くの関係者が認めるところである。それにもかかわらず、本当の当事者はそれを認めたがらないため、状況は改善されない。 ユーザ企業側で、丸投げにより恩恵にあずかれるのは発注担当者だけである。実質的に何も仕事をしなくてもS...

≫続きを読む

2.2. 価格破壊+やらされ仕事=低い満足度 ハッピィ・エンジニアリング

 「2.1 丸投げ文化」で書いたように、システム業界とそれを取り巻く顧客の考え方は成熟しているとは言い難い。この丸投げの連鎖が「広告、景品、大幅値下げ」とでもいうような無秩序な競争状態を生む。プログラマを抱える開発会社は、「Javaができます、C言語ができます、何年経験しています」以外の尺度がない状...

≫続きを読む

2.3. 中間搾取でボロもうけ ハッピィ・エンジニアリング

 ハイテク産業という言葉の後に「IT産業」なる横文字まで出てきた。コラム「業界のレベルダウンを検証する」に記述したように、ITビジネスというのは、インターネットや電話などの通信の仕組みを利用したコンテンツビジネスと、企業買収により収益を生むビジネスモデルをさしているようである。 残念ながら、システム...

≫続きを読む

2.4. 人手余って人材足らず ハッピィ・エンジニアリング

正しい質問は、「ソフトウェアの開発とは何か?」ではなく、「プロとしてのソフトウェア開発はどうあるべきか?」である。この答えは明らかであると私は考える。プロとしてのソフトウェア開発は、「エンジニアリング」であるべきだ。現在、そうなっているか?なってはいない。そうなるべきか?もちろん、何がなんでも、そう...

≫続きを読む

2.5. 根性、根性、ド根性 ハッピィ・エンジニアリング

ゆとりは一種の投資である。ゆとりを無駄と考えず投資と考えることが、ビジネスを理解している組織と、単に忙しいだけの組織との違いである。『ゆとりの法則』トム・デマルコ著, 伊豆原弓訳, 日経BP社, ISBN4-8222-8111-6 たいていの国では週休1〜2日の休みがあり、1日の労働時間は7〜8時間...

≫続きを読む

シェアしてくれると嬉しいです!
このエントリーをはてなブックマークに追加LINEで送る

ハッピィ・エンジニアリングとは? 書籍を読む プロフィール コンサルティング