このエントリーをはてなブックマークに追加LINEで送る

4.3. 現実路線

ハッピィ・エンジニアリング表紙

 全体最適を考え、BPRを実現するという考え方は1993年にすでに『リエンジニアリング革命|企業を根本から変える業務革新』(マイケル・ハマー/ジェイムズ・チャンピー著、野中郁次郎訳、日本経済新聞社、ISBN4-532-19154-8)という書籍で発表されている。システム投資について書かれた書籍の論調は、このBPRを実現するためのツールとして利用すべきであるという考え方に一致している。すでに、BPRという考え方はスタンダードと呼べる位置にありながら、社団法人日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)が2005年に行ったユーザIT動向調査によれば、「プロジェクト企画、BPRの推進」を実現している企業はわずか38.7%にすぎない。*1

 

 多くの日本企業では、経営的側面から全体最適を考え、事業戦略やシステム戦略につなげていくことや、その必要性を経営者が認識していない。このような現実の中で、上述したようなベストプラクティスは残念ながら通用しない。求めていない者に道理を説くのは時間の無駄である。

 

 日本では基本的に二番煎じが経営戦略の基本となっている。これは日本のベンチャー企業の姿が象徴している。日本のベンチャー企業は基本的にネットベンチャーであり、インターネットをビジネスの基本に置き、コンテンツの充実を図るためのM&Aを繰り返している。しかし、テクノロジーを作り上げて販売するようなベンチャー企業は育ちにくい。R&Dの費用が膨大になる割に、売れる見込みが立ちにくく、製品化が終了し製品を市場に投入してからようやく売り上げにつながるからだ。しかし、技術が陳腐化する速度と、他社にキャッチアップされることは大きなリスクであり、次の一手を打つためのアイデアと資本を蓄えることは並大抵のことではない。日本においては、大企業のみならず、たとえベンチャー企業であっても、この世の中に存在しない新しい製品を市場に投入することは困難を極めているのである。

 

 なにか新しいビジネスを立ち上げ、新しい市場を開拓した企業が、必ずしも成功するわけではない。他社に先行して利益を生み出すのは難しいのである。しかし、その市場性が存在することさえわかれば、大企業は、類似した製品やサービスを迅速に市場に投入することが可能である。二番手、三番手として市場に参入した企業が成功する例は多い。その後は、熾烈な価格破壊による競争を経て、市場に認められた企業の寡占状態が続くというシナリオに至る。

 

 「成功する日本企業」というのは、「成功しそうと見ると、他人のアイデアをパクって素早く事業を立ち上げられる会社」である。大企業の官僚化が進むと、成功を求めるよりも失敗を恐れるようになるため、動きが鈍くなり没落していく。つまり、全体最適を基本としたベストプラクティスを選択できる企業とは、没落寸前で「やるしかない」企業、あるいは創業者一族がいなくなって(みすみす利権を手離すことはないため、たいていの場合は不祥事や業績の悪化により追放されたであろう)新しい時代を作らなければならない企業の2者にほかならない。

 

 このような「パクリ」を基本とする企業経営は「競争優位」「戦略立案」でなく、すでに自社が持っている資本とブランドを活用した「同業他社後追い」「素早い対応(その場しのぎ)」を戦略の基本としている。この基本戦略にのっとってシステム開発を行う場合には、経営者からIT部門に「あの会社がやっていることをウチでもやるぞ、できるだけ早く実現しろ」という指令が下される。したがって、開発プロジェクトでは、

 

  • 同業他社の動向をふまえたベンダ提案の丸のみ
  • 同業他社各社のいいとこ取りの八方美人化
  • 一貫性のない場当たり的なシステム構築
  • インフラよりもアプリケーション重視
  • システム構造の複雑化

 

などの問題が発生する。

 

 ところが、現状のシステムのみを見て分析した場合には、SIベンダの営業から始まってユーザ企業の経営者やシステム担当者、数々の大規模システムを作り上げた設計者、実際にモノ作りをするプログラマに至るまで、「なぜ、このような状況が生まれたのか?」という原因がわからないまま、同じ問題を抱えたシステムを新たに開発していくことになるのである。

 

 コンサルタントはこの状況を立て直すべき人材であるが、残念なことに、「第3章 プロジェクトの登場人物」で解説したとおり、米国仕込みの「ベストプラクティス」から入る教科書的な理論をいうだけのコンサルタント、あるいは現状を所与の条件としてその中でなんとかしようとする経験則だけのコンサルタントの2者に分類されるため、現実的な解答は期待できない。

 

 システム開発はそれぞれの国の文化や商慣習などに依存する。そのため、米国流の考え方とは別に、日本独自のやり方を考えるべきである。現状から脱却するには、ユーザ企業のシステム部門によるITガバナンスの強化、それによる経営からの場当たりな要請に即応できる「仕掛け作り」が重要であろう。

 

 

シェアしてくれると嬉しいです!
このエントリーをはてなブックマークに追加LINEで送る

4.3. 現実路線 ハッピィ・エンジニアリング関連ページ

4.1. システム開発発生の経緯
ソフトバンククリエイティブから刊行されたハッピィ・エンジニアリングが無料で読めるサイトです。
4.2. 経営戦略
ソフトバンククリエイティブから刊行されたハッピィ・エンジニアリングが無料で読めるサイトです。
4.4. コスト構造の再認識
ソフトバンククリエイティブから刊行されたハッピィ・エンジニアリングが無料で読めるサイトです。
4.5. ROIの検討
ソフトバンククリエイティブから刊行されたハッピィ・エンジニアリングが無料で読めるサイトです。
4.6. 速い、安い、うまい
ソフトバンククリエイティブから刊行されたハッピィ・エンジニアリングが無料で読めるサイトです。

ハッピィ・エンジニアリングとは? 書籍を読む プロフィール コンサルティング