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4.6. 速い、安い、うまい

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 個々の開発プロジェクトに求められることは、QCDの実現である。品質が低ければ、運用開始後のトラブルによる損害が発生したり、保守コストに多くの費用を必要とすることになる。そもそもコストが高くつきすぎれば、その回収ができない場合も発生する。そして、運用開始が当初の計画より半年、1年と遅れることにより他社に出遅れ、機会損失となる。QCDのすべてを満足させて初めて、ROIが高いシステムの必要条件を満たすことができる。

 

 「2.5 根性、根性、ド根性」において、「それぞれの工程ごとで不良を出さないように作ることこそが、結果として納期の短縮と品質の向上につながる」と記述したとおり、納期・コスト・品質は因果関係を持つ。納期の短縮のみ、コストの圧縮のみ、品質の向上のみ、というような部分的な向上を図るよりも、納期・コスト・品質という要素のすべてを満たすための方策を立てるほうが、満足のいく結果を生み出すことが多い。

 

 そして、それらのシステムは単に業務要件を満たしただけのものではなく、ビジネスモデルの激しい変化に対応可能であり、競合他社に先行し新製品やサービスを市場に投入できる、あるいは、競合他社の新製品やサービスに迅速に追いつき、追い越すことができるものでなくてはならない。しかし、「ソフトウェアはソフトではない」という言葉が表現するように、変化に対応可能な仕組みをすべてのシステムに一足飛びに適用することは不可能に近い。この仕組み作りは、経営戦略の中・長期計画の中で個々のプロジェクトとは別に取り組むべきである。個々のプロジェクトは変化に対応できる仕組みを取り入れながらも、業務要件を満足させることに注力できる体制で行うのが理想的な姿であろう。

 

 コスト圧縮の3つのポイントは、新規開発コスト・運用コスト・保守コストの低減化である。言うまでもなく、これらのコストを低減するための大前提は、可能な限りコストを可視化し、ITガバナンスを徹底し、自社のシステムが丸投げによるSIベンダの支配から脱却することである。

 

 開発コストや保守コストの低減化に必要なことには3つのポイントがある。それらは「運用の一元化」「データ統合」、そして代表的なSOA(Service-Oriented Architecture)の考え方である「部品化による再利用」である。

 

運用の一元化

 システムの運用や保守は、システム投資の相当部分を占める。ユーザ企業が運用や保守に対してコストを削減するための取り組みは、今後ますます重要な課題となっていくだろう。

 

 システム業界には「保守は利権」という言葉があるように、元請けのSIベンダは一次開発を捨て値で受注し、その後の運用や保守工程を独占することで一次開発のマイナスを回収している場合が多い。運用や保守工程は長期的な収益が見込めるため、開発プロジェクトの赤字は、運用や保守を受託するための「営業コスト」とみなすのである。運用や保守まで含めたシステムのTCOが莫大に膨れ上がることになる。

 

 このような状況が避けられない原因のひとつは、プロジェクトの納品物件の完成度が低いことである。運用・保守に必要な情報がきちんとドキュメントにまとまっておらず、システムを開発したSIベンダ以外の企業がシステムの運用監視を行うことができないようにしている。結果として、運用・保守などのシステムの維持工程を、競争入札により調達することができなくなっている。

 

 現在では、ハードウェア・ネットワーク・OS・ミドルウェアなど、システムの基盤技術はオープン化の傾向にあるため、運用監視や保守に必要な前提知識が一般化しつつある。残るは、アプリケーションの運用監視や保守に関わる情報をSIベンダに求めることである。

 

 しかし、これだけでは十分ではない。その上でユーザ企業が行わなければならないことは、運用体制の一元化と、運用監視方式の統一である。

 

 システムごとに開発が行われ、運用が一元化されていないことは、

 

  • システム間連携のインタフェースが異なる
  • 運用方法が異なる
  • 操作性が異なる

 

など、運用コストや障害対応コストを増やす原因となる。コスト削減のためには、同じレベルのシステムが同じように確実に運用できることが重要になる。それには運用体制の見直し、運用手段の統一、障害時のシステム復旧や保守体制の確立などが重要な要素となる。

 

 現在のように、システムの多様化・複雑化によりコスト構造が見えにくい場合、単なるシステム運用や保守のレベルを超え、システムのライフサイクル全体を包括したサポートが求められている。つまり、導入されたシステムが破棄されるまでのサポートを、どのシステムも一律に行うことが求められているのである。

 

 運用監視方式を統一することで、システムの運用負荷を低減する。そして運用側は、システム開発の段階で、決められた運用監視方式に即してシステムが開発されていることを監視するとともに、SIベンダに整理されたドキュメントを提出させ、運用監視に必要な情報が揃っていることを確認したうえでシステムを検収する必要がある。

 

 また、運用体制を一元化することにより、ユーザ企業のシステムに関する情報の一元化が可能となる。情報が一元化されていることのメリットは大きい。例えば、ミドルウェアのバージョンアップやライセンス管理・ネットワーク・サーバ・IPアドレス・ハードウェア・設置場所などの情報をまとめておくことにより、バージョンアップ費用やライセンスの更新などを確実に行うことができる。また、障害発生時には、物理的にどこに設置された、どのハードウェアの、どのアプリケーションで、という情報を、さまざまな連携システムの主管部署に問い合わせることなく、すぐに収集が可能になる。このため、原因切り分けやSIベンダへの障害対応依頼などを迅速に行えるという効果がある。

 

データ統合

 ITガバナンスが徹底されておらず、システム部門が単なるシステム管理部門となってしまっている場合には、構造の異なるシステムが多数構築されている。これらは相互に連携するシステムではあるが、システムが保有するデータは重複し、整合性が取れなくなっている。また、システム連携を行う際に、FTPを利用してファイルをコピーしたり、別システムのデータベースからCSVファイルにエクスポートしたものをバッチ処理でデータベースにインポートしたりするなどの、無駄な開発コストが必要となっている現実がある。

 

 データベースを統合していれば、

 

  • タイムリーに必要な情報の活用が可能となる
  • データの維持管理が容易となり、データの信頼性が向上する
  • 多数のシステムの複雑な依存関係を解消できる

 

など、多くのメリットの享受が可能となる。

 

部品化、再利用

 ソフトウェアを部品化して再利用するという考え方は、1968年に発生したサブルーチンに始まり、共有ライブラリ・ActiveXなど、歴史的に多くの取り組みがなされてきた分野である。SOAでは技術を標準化したうえで、部品化は再利用を前提として開発し、部品化の単位は業務処理単位としている。そして、部品化した業務は標準化された通信技術を利用して疎結合で組み合わせることで、組み合わせの変更を容易に行えるようにしている。

 

 このようなアプローチにより

 

  • ビッグバン型開発(数年に一度の全面バージョンアップ)をやめ、小規模開発にすることで短納期化でき、リスクの低減につながる
  • 新しいビジネスプロセスの要求に対して、部品の組み合わせや入れ替えでの対応でシステム全体の開発ボリュームを下げることが可能となり、開発の高速化を図ることができる- 部品化・再利用により、各機能の品質を向上させ、保守コストを削減することができる- 自社で蓄積した部品を提供することで、特定企業による二次開発以降の独占を封じ、競争原理の徹底によるコスト削減を図る

 

などの、投資に見合った十分な効果が期待できる。

 

 部品化・再利用の考えでシステムを共通化していくにあたり、困難な問題も生じる。ハードウェアやOS・ソフトウェアプロダクトの寿命はおよそ5年である。しかし、業務アプリケーションは保守されながら10年以上利用されるのが普通だ。これらをふまえたうえで、業務アプリケーションは今までどおり10年以上の保守が可能となるような技術基盤を選択しなければならない。しかし、こうしたシステム基盤のライフサイクルは、どんなアプローチでシステム構築したとしても、常につきまとう課題でもある。

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