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第6章 標準化

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 ユーザ企業がシステムを調達するうえで重要なことは、どのようなシステムをどのSIベンダから調達しても、成果物の品質が均一化されていることである。品質はレビューとテストで高まるという誤解があるが、実質的には各工程における作業プロセスにより作り込まれるものである。

 

 品質の均一化を実現するために必要不可欠なのは、ユーザ企業が主導権を握り開発プロセスをコントロールすることである。そのためには、作業プロセスと作業内容の定義、それぞれの作業から生まれる成果物の定義などを初めとして、システム開発に求められる要素を洗い出し、全社的な標準として定義しなければならない。そして、その標準はそれぞれのプロジェクトに「そのままの形で」適用し、それぞれのプロジェクトへの適用状況を監査しながら、改善を繰り返していく必要がある。

 

 過去において、標準化がなされていないことに起因する問題は、マルチベンダのプロジェクトにおいて多く語られてきた。一番大きな問題として語られることは、「開発工程の用語や考え方が相違する」ということである。このため、作業想定が異なり、実際には予想外の作業が頻繁に発生し、作業の遅延や品質の低下につながっているという考え方である。実際には作業工程が問題なのではなく、力関係のうえで作業をやらされているにすぎない場合も多く、結局のところ、これらは単に開発側のもっともらしい言い分にすぎない。

 

 中規模から大規模の業務システム開発では、現在においても基本的にウォーターフォールモデル、あるいはその変形であるV字モデルにより開発が行われることがほとんどである。各社それぞれが独自の名称を付けているとはいえ、その工程の作業内容自体は「要件定義」「基本設計」「詳細設計」「製造」「テスト」という工程区分の中でほぼ共通である。しかし、実際にはひとつの会社であっても、その工程内で行うべき作業に対してのコンセンサスがまったく取れていないのが現実の姿である。

 

 1社に丸投げしているときであれば、プロジェクトがどうにか進んでいれば問題にならないことが、マルチベンダのプロジェクトになり、あいまいながらも責任の境界が各社に発生した途端に、プロジェクトにはさまざまな問題が発生する。マルチベンダによる開発で、開発工程の区切りの違いや言葉の違いだけで、その工程で行うべき作業が混乱するというのは、両者がそれぞれの作業範囲に対して相互の確認をしていないか、あるいは、その工程内で行うべき作業を理解していないことの証明である。

 

 つまり、「要件定義」「基本設計」「詳細設計」「製造」「テスト」といった言葉が表すそれぞれの作業自体は、定義されていないに等しい状況なのである。さらに、現在では大手のSIベンダですら、作業プロセスの標準化がなされているとは言えない状況である。ユーザ企業は競争入札・1社発注・マルチベンダなどの調達方式によらず、作業プロセスを標準化し、開発マネジメントに介入せざるを得ない。

 

 しかしながら、「標準化」という言葉を聞いた瞬間、過去において標準化策定や標準化された作業における苦い思い出ばかりが想起され、前向きな考えを持てない人がほとんどであろう。

第6章 標準化 ハッピィ・エンジニアリング記事一覧

6.1. 標準化の失敗 ハッピィ・エンジニアリング

 開発プロセスの標準化は、失敗を繰り返してきた歴史を持つ。一時的に成功した企業もあるが、時間の経過とともに形骸化することを避けられない。まず、ありがちな標準化の失敗例を挙げてみよう。アーキテクチャや開発言語が進化したために、標準化が適用できないプロジェクトの体制が変わった途端に利用できない過去の習慣...

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6.2. 標準化策定時における問題 ハッピィ・エンジニアリング

 標準化活動が失敗する要素は、以下の2点に絞られる。標準化を策定すること自体が失敗する場合標準化を実際のプロジェクトに適用する場合の失敗 本節では、標準化策定の失敗の原因について記述する。体制の問題想定の明確化不足管理面の考慮不備合理性の欠如体制の問題 標準化策定を行ううえで一番難しい問題は、「誰が...

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6.3. 標準化適用時の問題 ハッピィ・エンジニアリング

 標準化策定後には、実際のプロジェクトに適用していくことになる。ここでの問題は、そもそも標準化の目的が徹底されていないことに起因する場合が多い。ありがちな問題は、以下の2点に絞られるだろう。標準化が実際のプロジェクトに合わない標準化を順守するのが困難標準化が実際のプロジェクトに合わない 「標準」を自...

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6.4. 標準化のあるべき姿 ハッピィ・エンジニアリング

 標準化プロセスに関する問題点を洗い出したところで、改めて標準化プロセスのあるべき姿を考えてみる。上述したような問題が改善され、効果が可視化できる標準化プロセスとは何か?標準化の目標 まずは標準化の目標が設定されている必要がある。何のための標準化なのか、標準化を適用することによって、どのようなメリッ...

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6.5. プロジェクトにおける標準化の利用 ハッピィ・エンジニアリング

標準化の運用 さまざまな「標準」が揃ったところが実際の標準化のスタートである。言うまでもなく、作り上げた「標準」を実際のプロジェクトに適用することこそが、標準化において一番難しいことである。 システム開発の工程は、現時点では、工業製品の製造工程と異なり、常に同じやり方が通用しない。そのため、作業者が...

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6.6. 標準化の維持 ハッピィ・エンジニアリング

 標準化は一度行えば終わりというものではなく、さらに有効なものとするため、また実際のプロジェクトとの乖離が起こらないように、改訂を重ねるべきものである。 改訂をするために必要なことは、以下の2点である。事後検証を行うこと改訂のルールを定め、適切に改訂すること 実際のプロジェクトでは、いくつかは標準化...

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