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7.4. 相互誤解

ハッピィ・エンジニアリング表紙

 要件定義工程は、ユーザ企業主導で行うべきものではある。とはいえ、現実的にはプロジェクトの利害関係者全員が関わる共同作業となる側面がある。

 

 要件定義の話題として、「ユーザは自分が欲しいものがなにかをわかっていない」「開発者は業務上のニーズを理解しない」といった、お互いの立場や方向性・能力の違いからくる不毛な議論を出発点とした相互誤解が問題となっている。特に、「ユーザは自分が欲しいものがなにかをわかっていない」という言葉は、要件定義について書かれた書籍に常に登場する話題のひとつである。さらに詳細に、「欲しいものがなにかをわかっていない」状態を定義しておく必要がある。

 

  • 作りたいものはわかっているが、伝える技術がない
  • 作りたいものは漠然としているが、ゴールが明確になっていない
  • 雲をつかむような状態で、どのように進めればよいかすら見えていない

 

 このようなレベルの違いこそあれ、要件定義は、異なる価値観を持つ利害関係者をうまく誘導していくという、技術的側面とは異なる「ヒューマンスキル」を必要としている。システムテストやユーザ運用テストの段階で「言った」「言わない」という不毛な会話をしないために、プロジェクトの目的や目標に照らし合わせていかなければならない。

 

 しかしながら、システムに対する知識、業務に対する知識、それぞれの立場の違いは明確で、ユーザ企業側とSIベンダ側のそれぞれが課題を抱えている。

 

 日経BPのWebサイトである「IT Pro」には、「“利用者への不満”渦巻く要求定義の実態」という記事が掲載されている。*1

 

 ここに書かれたユーザやSIベンダが持っている課題を整理することで、要
件定義に関する問題点が浮き彫りになる。

 

● ユーザ側の課題

 

  1. 利用者間での意見調整不備(人によって要求が大きく異なる)
  2. 利用者が要求定義書を積極的にレビューしない
  3. 利用者がヒアリングに非協力的
  4. 利用者自身がなにをしたいかわかっていない
  5. 利用者の要求がめまぐるしく変わる

 1から3はユーザ企業側の体制不備の問題である。
 4と5は要件定義そのものが困難であることを示している。

 

● ベンダ側の課題

 

  1. 要求変更の管理が難しい
  2. 設計、開発に引き継ぐときに情報の漏れや誤解が生じる
  3. どうすれば有効に利用者にヒアリングできるのかわからない
  4. ヒアリングした内容の整理、分析が難しい
  5. ヒアリングした内容を正しく理解できないことがある

 1は変更管理手法の問題である。
 2から5はユーザ企業〜元請けのSIベンダ〜下請け間の情報伝達の問題である。

 

 ヒアリング・整理分析・要件の記述方法などの要件定義のプロセスが方法論として確立されていないことが、大きな原因のひとつである。要件記述の方法や、記述内容の合意形成の方法などについて、ユーザ側とベンダ側の両者が共通の方法論を持たないまま「要件定義ごっこ」をやっているということに、要件定義の問題の本質がある。

 

 特に、要件定義の方法論で重要な課題は、ドキュメンテーション技術である。「自然言語ではコンピュータシステムに関する情報伝達は困難」という思いから、各種のダイヤグラムの提唱へとつながっていった。現状での到達点の代表的なものがUMLであろう。ダイヤグラムは開発側から出てきているため、全体から詳細へという方式が一般化し、よりグラフィカルで一覧性を持つものが好まれているように思われる。ダイヤグラムの問題は、自然言語ほどの表現力を持っていないこと、厳格に規定されているダイヤグラムの記述ルールをきちんと守って作るのは難しいこと、ダイヤグラムは一見理解しやすいように感じるため、「理解したつもり」になったまま先のプロセス進んでしまうことである。

 

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