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8.1. 経験、勘、度胸

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 昨今において、技術者のレベルダウン以上にプロジェクトマネージャのレベルダウンを問題視する必要があるだろう。システム開発に関わる人間が一番信用しないのが、「私はプロジェクトマネジメントができます」という人間である。彼らの話をよくよく聞いてみると、ほとんどが下請けにいいかげんな指示を出して仕事をさせている程度のお粗末な外注管理をしているにすぎない。なぜ、これほどまでに、日本におけるプロジェクトマネジメントのレベルは低いのだろうか?

 

 ひとつには、SIベンダでプロジェクトマネジメントをしている人間が、技術者としてシステム開発に関わっていないことが挙げられる。技術者というものへの理解、システム開発に関連するもろもろの作業への理解など、システム開発全般にわたる知識レベルが低いのである。

 

 さらに、もうひとつは、技術が通用しなくなった技術者の第二の人生がプロジェクトマネジメントへの転身であるという点である。マネジメントが「技術がなくても、誰でもできる仕事」に成り下がっているのである。

 

 しかし、現実的に見れば、全体を見渡しながらプロジェクトを進め、期間内に最終成果物を納品するためにチームをコントロールしていけないということは、すなわち失敗に至ることを意味する。烏合の衆だけでプロジェクトが成功することはないが、ハイスキルな技術者だけを集めたところで、プロジェクトをコントロールする人間なしに、プロジェクトがQCDを満たして終結することはない。

 

 プログラマ〜SE〜プロジェクトマネージャというキャリアパスが失われた現在においてなお、プロジェクトマネジメントは、経験、勘、度胸(KKD)という言葉で代表される状況に変化はない。ところが、現在においては、KKDで行われるプロジェクトマネジメントは否定せざるを得ない。

 

 その一番の原因は、プロジェクトマネージャが、KKDによるプロジェクトマネジメントを行うに十分な経験を持っていないということだ。

 

 さまざまな事象において十分な判断基準を持つためには、数多くのパターン認識が不可欠である。少ない経験しか持たない者が経験則に頼ると、経験から外れた事象には対応できない。正しい判断を下すために、数多くの経験が必要だとすれば、その経験をOJTのみでまかなうのは困難である。本来であれば、指導者の指導の下に訓練を積みながら乏しい経験を補うべきものである。

 

 大手のSIベンダでは、社会人経験のわずかな社員でもプロジェクトマネージャとなり、下請けのコントロールをしている。企業内教育が不十分である上に、実体験に乏しいマネージャが、正しい方法論を無視してKKDによるプロジェクトマネジメントを行うことがどれだけ無謀なことか、を自己認識する必要がある。

 

 ベテランのマネージャですら、ときとして過去の経験からくる先入観のために判断を見誤ることがあるというのに、経験の少ないマネージャは、判断材料の基礎となるパターンが乏しい。つまり、ベテランより経験が少ないマネージャのほうが、過去の実体験からくる先入観により判断を見誤る可能性は高いのである。

 

 KKDは、なんらかの事象を判断したい場合にはひとつの方法論となる。しかし、プロジェクトマネジメントで行うべきことは、その場その場の判断だけではない。綿密に計画し、変化に対応しながら、計画から逸脱しないよう、リーダシップを発揮して進めていくのがプロジェクトマネジメントである。

 

 開発経験を持たないプロジェクトマネージャが増えている昨今において、プロジェクトマネジメントの基本原則を知らずにマネジメントを行うのは無理がある。

 

 なぜなら、プロジェクトマネージャが開発経験を持っていた時代ですら、プロジェクトマネジメントはケーススタディで身につけられるものではなかったからである。似たような機能を持つシステムの開発ですら、利害関係者それぞれの立場や発注側・受注側の思惑など、プロジェクトを取り巻く環境は異なり、同一と呼べるプロジェクトは存在しない。個々のプロジェクトは、常に形を変えてプロジェクトマネージャの前に立ちはだかっている。

 

 プロジェクトマネジメントとは、その場その場の状況を回避していくことではない。あらゆる事象を想定し、十分な計画をもって開始し、プロジェクトが進行していく中で発生するさまざまな変化に対応しながら、当初の計画を逸脱しないように進めていくものである。

 

 プロジェクトマネージャは、プロジェクトマネジメントは何のために存在するのか、マネジメント活動として行うべきことは何なのか、ということを再認識した上で、短納期・ローコスト・品質という当然の要求に応えてプロジェクトをコントロールしていく必要がある。

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